現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

6「少食」「玄米食」を病院に導入した理由。

2019年12月16日

――
腸内細菌というと、乳酸菌の仲間が「善玉菌」と呼ばれて重視されていますが、腸内の共生菌はそれだけではありません。様々な働きをする多種多様な菌がバランスよく共生している状態が良いということですか?
佐古田
正直、腸内細菌の働きについては、まだまだ明らかな結論を出すのが難しい状況です。たとえば、歯周病の原因として歯肉炎を起こす菌(Porphyromonas gingivalis)が犯人だろうと長い間思われていましたが、どうやら単独犯ではなく、いくつかの菌が集団で作用して歯の骨を溶かすということがわかってきました。腸内細菌はもっと多種多様ですから、一つや二つの菌について議論しても答えは出てきません。
――
腸内細菌の全容を把握するのは至難の技かもしれません。
佐古田
ですから、私としては長年の経験的実証として、私たちの先祖が食べてきたものを信頼するのが一番いいのではないかと感じています。
――
この点は、糖質制限をすすめる先生とは違いますね。日本の伝統食が腸に優しい食事であり、リーキーガットの予防に適していると考えてよろしいでしょうか?
佐古田
他の先生と意見の違いもあるかもしれませんが、私は患者さんが普段できそうなことをおすすめするようにしています。そもそも、これが絶対によいと言ってもできない人もいますよね?
 たとえば、患者さんの治療で一番難しいのは、独居の男性です。自炊をすすめても無理だからと外食に頼る人が多いですから、「できることから一つでも実践していきませんか?」とお願いしています。
――
なじみやすい日本の伝統食をすすめるのも、そうした背景があるわけですね。病院では食事療法にどのくらい取り組まれているのですか?(※インタビュー当時、大阪・豊中市の刀根山病院に所属)。
佐古田
私の独断といいますか、じつは病院の倫理委員会を通さずに800キロカロリーの少食を何人かの患者さんに実践していただいたことがありました。4日間ほどの無理のない実践だったのですが、ヨダレはだいたい半分に減り、不整脈もかなり良くなり、夜間徘徊も少なくなりました。さらに、運動症状が改善される方もおられました。
――
パーキンソン病の患者さんにそれだけの改善が見られるというのは、すごいですね。
佐古田
倫理委員会に出すと「何日やればいいのか」といった細かい話になり、いろいろと大変なんです。私は体重やケトン体の発生をチェックしながらやればいいと思っていたのですが、ややこしいんですね。
――
ケトン体という言葉が出てきましたが、糖質制限した場合もこのケトン体をエネルギー源にしていると考えられています。先生の場合は、少食、断食を通して脂質をケトン体に変換させ、有効活用することをすすめている感じでしょうか?
佐古田
赤ちゃんが離乳食になると、ケトン体からブドウ糖に神経細胞のエネルギーは変換されるわけですが、それまではケトン体を脳のエネルギーにしています。糖質制限食のように、ご飯を減らして、肉、卵など何でも食べていいという食事が良いとは思いませんが、糖を減らせば確かにケトン体は出てきます。
――
ケトン体は、エネルギー源以外に体にどんな作用をするのですか?
佐古田
交感神経に働きかけ、そのスイッチを切って緊張をほぐしたりする作用も知られています。活性酸素を抑える遺伝子を網羅的に活性化させるという論文もありますね。
――
先生の場合、一日800キロカロリーが目安ですから、三食が各200〜300キロカロリーになるわけで、相当な少食ですよね。こうやって食べる量を減らすだけでパーキンソン病のような難病の回復が見込めるというのも驚きです。
佐古田
食べるボリュームだけに着目して研究したことはないですが、少食の効果というのは、単にケトン体が出るとか、インシュリンが出て時計遺伝子が活性化されるといった変化だけではないでしょうね。単純に、老化して弱ってきている胃腸を機能回復させるためにすすめているところもあります。
――
少食に限らず、食事療法全般の効果についてはどうでしょうか?
佐古田
たとえば、どんな食事を摂るとアルツハイマー病やパーキンソン病になりやすいかを調べた疫学データがありますが、どちらの病気に対してもほぼ結論は同じです。動物性脂肪や動物性タンパク質、あるいは白砂糖などが良くない食材のなかに入っています。良いものとしては野菜類が多いですね。鶏などの家禽類は一応OKな食材、ヨーグルトもリスクにはならないと考えられています。
――
食事のスタイルについては?
佐古田
アメリカの論文に、あるパーキンソン病患者さんに食事療法を実施して6ヶ月で改善したが、もとのウエスタンスタイルの食事に戻したら病状ももとに戻った。そしてまた食事療法を実践すると改善したというケースレポートがあります。
その食事療法で使用したのがブラウンライス、つまり玄米です。基本的に玄米に野菜をたっぷり、動物性脂肪は徹底して控えるというものです。このレポートをふまえると、昔ながらの日本の食事で改善したとも考えられます。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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