現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

7時計遺伝子、脳、内臓のつながり。

2019年12月23日

――
そこでもう一つ先生が注目されているのが、「時計遺伝子」ですね。食べ物の量や栄養ではなく、生体リズムと食べ物の関わりも重要だとお聞きしています。生体リズムに関しては、光との関係も無視できないと思いますが……。
佐古田
光に関しては、目に光を当てることが一つのポイントでしょうね。たとえば、ネズミの目は視神経が交差していますが、人は半分非交差なんですね。この交わるところの上に「視交叉上核」と呼ばれている場所があります。ここにマスターの時計遺伝子が内蔵されていて、光が当たることで時計遺伝子がリセットされるわけです。
――
マスターの時計遺伝子に加え、身体中の一つ一つの細胞にも時計遺伝子は内蔵されていると言われていますね。
佐古田
指揮者(視交叉上核)のタクトで各臓器の演奏が調和していくと、生体リズムが回復し、私たちの身体は健康をキープできるという考え方です。
――
時計遺伝子をキーに、脳と内臓がつながっているわけですね。
佐古田
それがどう関わっているかという点はまだ謎めいていますが、このつながりを理解すると面白いことが見えてきます。たとえば、肝炎にかかると肝細胞に炎症が起こり、内蔵された時計遺伝子はいったんバラバラになります。肝炎の治癒に1ヶ月ほどかかったとしても、じつは炎症自体は2週間ほどで治まり、後は時計遺伝子が整うのに1ヶ月かかっているという考え方も成立するんです。
――
炎症が治まっても、それだけでは治癒につながらないということですか?
佐古田
一つ例を挙げると、骨は夜に作られると言われていますね? それが、無呼吸になると睡眠時間がずれてしまうため、細胞の時計遺伝子がバラバラになり、みんなで骨を作るという作業ができなくなります。だから、骨粗鬆症になりやすい。
――
生体リズムが狂うことによって骨が形成されにくくなり、その結果、骨粗しょう症が起こるわけですか。これを肝炎の場合に当てはめると……。
佐古田
時計遺伝子が調和せず、肝臓の細胞が仲良くみんなで仕事をしてくれないと、肝機能も回復せず、血液検査をしても数値が落ちてきます。このあたりをヒントに、「夜間頻尿も腎臓の細胞の時計遺伝子が乱れることで起こるのではないか?」と調べたところ、海外に論文が一つありました。
――
様々な病気の発症に関わっていそうですね。
佐古田
いまはまだ市民権が得られていませんが、「時計遺伝子を揃えさえすれば病状も良くなる」という考え方は、今後様々な形で出てくると思います。
――
概日リズム(サーカディアン・リズム)という言葉があるように、我々の生体リズムはほぼ24時間周期で刻まれていると言われています。そうやって自然と同調しながら生きているため、いろいろな形で生活リズムが乱れると、このリズムと同調できなくなってくるわけですね。
佐古田
はい。夜更かししたり、朝寝坊したりしても概日リズムは崩れやすくなりますが、そうした生活リズムの乱れだけでなく、リーキーガットで細菌の細胞壁(エンドトキシンなど)が肝臓に入ると肝臓の時計遺伝子が乱れますし、いろいろな乱れ方があります。年配者が1週間まったく外出しないことでも乱れたりもします。
――
食事との関係もあると思いますが、「朝食を摂ることで時計遺伝子のスイッチがオンになる」と言われていますね。
佐古田
食事の場合は、すい臓から分泌されるインシュリンが体内時計を整えると考えられています。ただ諸説があって、朝食をきちんと食べ、インシュリンが効率よく働くことがリセットの一つになることは十分に考えられますね。
――
朝起きてカーテンを開き、光を浴びるということと同様、何かを食べ、消化管が働くことも時計遺伝子のリセットにつながる。生きるということそのものが、リズムのなかにある印象ですね。
佐古田
おそらく、皮膚にも消化管にも目にも耳にも、いろいろなところにリセットの窓があるんだろうと思います。私たちは目に光を当てますが、耳に光を当てることが冬季うつ病に良いということで、北欧では医療機器として認可されています。
――
概日リズムの「概日」とは、「概ね」という意味ですよね。ヒトの生体リズムと地球のリズムがピッタリ合っているわけでないため、どこかで調整しないといけない。そのリセットのカギがたくさんある?
佐古田
一般的に生体リズムは25時間と言われています。それを毎日毎日、24時間にリセットする必要があるわけです。たとえば、「非24時間型睡眠覚醒症候群」と呼ばれる不眠症がありますが、発症するとサイクルが滅茶苦茶になりますから、この症状を持った人はどんな病気になっても大変です。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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