現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

8日常の中に病気の原因は隠されている。

2019年12月30日

――
先生の病院で行われている「光を浴びる」治療法について、もう少し教えてください。
佐古田
正式には「高照度光照射療法」といい、もともとはうつ病などで扱われている治療法です。ただ、日本ではあまり精通している方がいなかったため、いまはオーストラリアの先生に教えてもらいながらやっています。この分野の第一人者であるグレゴリー・ウイリス先生と言います。世界でこの治療法を行っているのは、日本の私たちとオーストラリアのウイリス先生のグループだけです。
――
これはどのくらい光を当てるのですか?
佐古田
まだどの程度の時間が適当なのかハッキリわかっているわけではありませんが、いまのところ1時間当てるようにしています。
――
パーキンソン病の患者さんのなかにも、生体リズムがずれ「睡眠相前進症候群」という眠くなる時間が早くなる症状も出てくるわけですよね。
佐古田
はい。パーキンソン病の治療薬であるドーパは覚醒作用がありますから、その副作用として、睡眠相前進症候群になってしまう面もあります。こうした患者さんには、夜の20〜22時の2 時間に光を当てます。
――
薬の副作用で眠る時間が早くなるわけですか?
佐古田
ドーパはドーパミンの欠損を補うための薬ですが、覚醒作用があるため眠れなくなるんです。その結果、生体リズムが乱れ、夕方くらいに眠くなってしまいます。光を当てるのは、まずぐっすり眠ってもらうためですね。夜に眠れるようになれば、時計遺伝子の乱れも解消されやすくなります。
――
こうした治療は、いつ頃から?
佐古田
4年くらい前(2011年)からです。以来、全国各地からやって来るパーキンソン病の患者さんにすすめ、これまで170人ほどが体験されています。あまり宣伝しているわけではないのですが、口コミであちこちから来られますね。
――
先ほどの三本柱の一つがこの光を利用した「日内リズム養生」なのだと思いますが、食事にしても、睡眠にしても、やはり生きることの基本的な部分に問題の答えが隠されているように思えます。
佐古田
おっしゃる通り、病気になるのは日常生活のどこかに問題があるわけです。そこを考えずに薬ばかり飲んでいても、治癒はなかなか難しくなります。自分の生活を一度チェックして良くない点を見つけて直せば、病気の回復は早いでしょう。薬はしょせん毒ですから、何かしら問題が出てきます。
――
長年にわたり薬の開発に携わってきた先生の言葉なので、とても重く感じますね。
佐古田
たとえば、胃酸を分泌する薬が開発されたことで胃潰瘍などは劇的に減りましたが、その薬の副作用として、パーキンソン病や骨粗鬆症は増えるというデータがいま頃になって出てきています。残念ながら、すべてに良い薬というのはないんです。ですから、患者さんには生活のなかでできることを行ってもらい、それでも足りない部分を薬で補いましょうというスタンスが重要ですね。
――
先生は、大阪大学の医学部で新薬試験センター長をされていたんですよね。そうした長年の経験のなかで、薬の良い面と悪い面をつぶさに見てこられたのだと思います。
佐古田
薬を作ることも必要ですが、いまの時代は我々が望んでいなくても製薬会社が開発して、データに優位性が出たら発売されるという状況です。その結果、実際の治療にさほど役に立たないものがどんどんマーケットに出てきて、それで売り上げが一千億円などと言われます。医療費が圧迫されることを考えると、もっと私たちが日常でできることを積み上げていく必要があるでしょう。
――
研究が進み、専門化が進むと、それぞれの分野の専門家が出てきて、医療でもそれぞれの診療科で薬が処方されることになりますから、必然的にオーバードーズ(多剤投与)になり、予期せぬ副作用が発生する場合も増えてきます。
佐古田
それは間違いありません。
――
こうした負の部分を改善していこうとする流れのなかで、先生の治療があるのだと感じます。
佐古田
そうですね。私のほうでは、病院のある豊中市の調剤薬局の皆さんと勉強会を開き、どうやって減薬するか、患者さんの残薬をどう減らしていくかについて話し合い、具体的な方策を練っています。
――
患者さんの手もとに、飲みきれない薬がたくさん残っているという状況ですね。
佐古田
一つ一つの病名に対して薬を出していると、年配者の場合、服用する薬がゆうに30種類を超えてしまいます。それがベストであるとは誰も思いませんし、身体への作用も保証できないでしょう。ですから、もう少し薬を減らせる環境づくりが必要ですし、医者も安易に薬を出しすぎる面を見直さなければなりません。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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