現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

9ヒトも「光合成」でエネルギーを得ている?

2020年1月6日

――
光に関して、もう一つ興味深い話題があることを思い出しました。先生は「光合成」についても研究されていますね?
佐古田
以前、医師会のニュースに「人は光合成をするか?」という寄稿文を書いたのですが、ご存じのように、植物はクロロフィル(葉緑素)で光合成をします。このクロロフィルによく似たものはヒトでは、「ヘム」と呼ばれています。ヘムはヘモグロビンと呼ばれるタンパク質に結合します。
――
ヘムの働きや性質がクロロフィルと似ているということですか?
佐古田
正確に言うと、ヘムタンパク質と呼ばれるタンパク質のなかで一番多いのがヘモグロビンです。ほかにサイトクロームC、ヘムオキシゲナーゼ、一酸化窒素合成酵素などがあり、これらはすべてヘム結合のタンパク質です。面白いことに、PER2やNPAS2などと呼ばれている時計遺伝子もヘムタンパク質です。
――
こうしたヘムタンパク質が光と関係しているということですか?
佐古田
少し例を挙げながら考えていきましょう。たとえば、かつらメーカーのアデランスが「赤い光を当てると毛が生えてくる」という機械を発売しました。アメリカでは、赤い光を当てると創傷治癒が早くなるという臨床研究がされています。どうやら赤い光がサイトクロームCを活性化して、ATPを作るようなのです。
――
面白いですね。サイトクロームCは、細胞内にあるミトコンドリアでエネネルギー代謝に関わっている物質ですね。活動エネルギーのもとになるATPの多くはミトコンドリアで作られますから、サイトクロームC、ミトコンドリア、エネルギー産生、光といったキーワードがつながってきます。
佐古田
一方で、植物はクロロフィルで光合成と言いましたが、ヒトはメラニンで行っているという説がメキシコの研究グループから出されています。まあ、かなりユニークな説なのですが。
――
ここにも光が関わっているわけですね。メラニンは脳内の黒質でも作られていますが、その理由がよくわかっていないとおっしゃっていましたね。
佐古田
目の網膜にもメラニンが含まれます。瞳孔が黒く見えるのは、網膜の外側を覆う網膜色素細胞にメラニンが含まれるからです。皮膚に太陽が当っても、紫外線の影響で肌が黒くなり、シミができますよね。
――
メラニンというと、一般的には紫外線をカットする働きくらいしか知られていません。でも、じつは身体の黒くなる場所に偏在しているんですね。
佐古田
メラニンの役割は本当にそれだけでしょうか、というのが私の疑問なのです。何らかの理由で黒質が高いエネルギー産生を要求する組織であるとすれば、光合成説につながってくるかもしれません。
――
黒質が光の影響を受けているというのは……。
佐古田
皮膚ではメラノサイトという色素細胞がメラニンを産生し、表皮細胞であるケラチノサイトにとどまって、紫外線から身を守ります。ここにはチロシナーゼという酵素が関わっているのですが、黒質にチロシナーゼが存在する報告を私はまだ見いだせていません。黒質のメラニンがどうやって産生されるのか、その経路は謎めいています。ちなみに、メラニンは耳にも腸にも存在していますが、その役割もわかっていません。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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