現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

10「症状」より「生き方」にアプローチする医療。

2020年1月13日

――
なにやら推理小説を読み解いているような面白さがありますね(笑)。
佐古田
2007年に発表されたアルバート・アインシュタイン大学の研究では、「鉱山に行くと黒いカビが生えていることやチェルノブイリ事故でも黒いカビが増えたことから、黒いカビが生えるのは放射能や紫外線をカットするため、カビにメラニンが存在するのだと」という説に異論を唱えています。
――
黒いカビにもメラニンが含まれていた?
佐古田
ところが、このメラニンを調べてみたところ、紫外線や放射能に対する感受性には変化がなく、むしろ電磁波が当たることでATPを産生していました。そのため、チェルノブイリ事故の黒いカビの増殖もメラニンによる光合成なのだと考えられるようになりました。
――
ここまでの話を整理すると、クロロフィルに似たものとしてヘムがあり、黒質のメラトニンも光合成に関与しているかもしれない……。
佐古田
生き物は光とともに進化してきたわけですが、私たちが医学部で学んだことのなかに光の重要性についての言及はほとんどありません。生物の活動の根幹にあるエネルギー代謝のメカニズムについては、ヒトと光の関係を視野に入れながら、もう一度考え直さなければいけないかもしれません。
――
エネルギー代謝については、ミトコンドリアが解明される過程でほぼ全容が明らかになった感がありましたが、光との関係は欠落している気がします。
佐古田
たとえば、トカリネズミは2グラムの体重で1.4グラムのエサを食べますが、この比率でゾウの食べる量を計算すると、現状の20〜30倍は必要になります。大きな動物のほうがエネルギー効率が良いということになりますが、それがなぜなのか十分な説明はなされていないでしょう。
――
食べる量が相対的に少ない以上、何で補っているかということですね。
佐古田
その説明として、大きな動物は光合成をして補っているという仮説も可能かもしれないということです。
――
先生のお話を伺っていくと、これまで習ってきたこと、身につけてきた常識をいったん解体して、もっと包括的にとらえ直す必要がある気がします。
佐古田
そうですね。もっと視野広げる必要はあると思いますね。
――
現代物理学の大家であるエルヴィン・シュレディンガーが、『生命とは何か』という本のなかで語っている一節を思い出します(下記参照)。いまという時代は、「諸々の事実や理論を総合する仕事に思い切って手をつける」、大きなターニングポイントなのかもしれません。
佐古田
そろそろ、全体を部分に分けてとらえる方法そのものに問題があったのではないかと気づいてもよい気がしています。患者さんから「万人に共通な事項」としての病因を切り出すことにより、患者さんの生き方そのものにアプローチする方向に医療も転換していくべきでしょう。
――
このあたりの点については、また時期を改めてお伺いしたいと思います。興味深いお話、どうもありがとうございました。

事実や理論を総合する時代

「しかし、過ぐる百年余の間に、学問の多種多様の分枝は、その広さにおいても、またその深さにおいてもますます拡がり、われわれは奇妙な矛盾に直面するに至りました。
われわれは、今までに知られてきたことの総和を結び合わせて一つの全一的なものにするに足りる信頼できる素材が、今ようやく獲得されはじめたばかりであることを、はっきりと感じます。
ところが一方では、ただ一人の人間の頭脳が、学問全体の中の一つの小さな専門領域以上のものを十分に支配することは、ほとんど不可能に近くなってしまったのです。
この矛盾を切り抜けるには(われわれの真の目的が永久に失われてしまわないようにするためには)、われわれの中の誰かが、諸々の事実や理論を総合する仕事に思い切って手をつけるより他には道がないと思います。
たとえその事実や理論の若干については、又聞きで不完全にしか知らなくとも、また物笑いの種になる危険を冒しても、そうするより他には道がないと思うのです」(エルヴィン・シュレディンガー『生命とは何か〜物理的にみた生細胞』岩波新書より)

(おわり)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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