今回のTISSUE(ティシュー)では、「毎日は愉しい」をテーマに、さまざまな分野からつむぎだされた次の7つの物語をお届けします。いったいどんな物語なのか? ご案内していきましょう。

5高木由臣/ジャームとソーマの寿命論

2019年8月19日

生物は、細胞分裂するだけのバクテリアのような生き物と、たくさんの細胞から成り立ち、有性生殖をして子孫を残す大型生物に大きく分けられます。

前者は原核生物、後者は真核生物と呼ばれますが、存在のしかたがまったく違っています。

真核生物の末裔である僕たちからすれば当たり前の……時間とともに老いて死ぬこと。寿命があること。メスとオスが出会って子孫を残すこと。

目に見えない小さな生き物たちは、こうした時間軸によって成り立つ世界とはかけ離れた場所で繁栄をつづけ、僕たちの生存に様々な影響を与えてきました。

時間のない世界と時間のある世界が重なり合い、たがいに影響を与えながら存在しているこの世界の不思議なありようを、どう解いたらいいのか?

時間とは? 寿命とは? 生殖とは?

今回のインタビューでは、ゾウリムシの研究を通じて、《生老死の謎》を追いかけてきた高木由臣さんを京都に訪ね、生命の進化にまつわるお話をじっくりと伺いました。

ここでキーワードになったのが「ジャーム」と「ソーマ」。

耳慣れない言葉かもしれませんが、意味がわかると生命の輪郭がおぼろげに浮かび上がってきます。

インタビューより該当する箇所をご紹介しましょう。

――
ジャームとソーマの話、『寿命論』を読んだ時から大変興味深いと思っていまして、詳しく伺っていきたいのですが。
高木
有性生殖をする細胞がジャーム(Germ)で、そのほかの個体を維持するための体細胞がソーマ(Soma)。
ジャームを生殖系細胞、ソーマを体細胞系細胞とも呼びます。ソーマは、永遠に分裂していく生存可能性に抑制をかけ、不可逆的に老死に向かっていくわけです。
――
精子と卵子が受精して、分裂していく過程で細胞がジャームとソーマに分かれ、そのうちのソーマ(体細胞)が老死に向かうと。一般にはそれを死と呼ぶということですね?
高木
ええ。それに対して、ジャームは有性生殖によって新たに受精卵をつくることで抑制を解除し、細胞分裂を再開するわけです。
――
そこでまたジャームとソーマの分化が起こり、受精によってジャームのほうの遺伝情報が次代に継承されていく……。
高木
その意味では、ジャームを「残る細胞」、ソーマを「捨てられる細胞」とも言い換えられます。

死と呼ばれる現象が、生物にとっては極めて限定的であること、絶対ではないこと。

だって、「捨てられる細胞」のことをそう呼んできたわけですから。それがわかるだけでも、不思議な感じがしてきませんか? 生物学には、生と死という僕たちにとって切実なテーマすら相対化させ、俯瞰させる力があるのです。

ひとりの科学者が生涯をかけて探求してきたテーマの一端が、インタビューから感じとれると思います。

本を手にとって、ぜひご一読ください。

(つづく)

\ この記事をシェアする /

今回のゲスト

今回のゲストポートフォリオ

高木由臣 Yoshiomi Takagi

1941年、徳島県生まれ。理学博士。専攻は発生遺伝学、細胞生物学。静岡大学卒業。京都大学大学院理学研究科修士課程修了。同博士課程中退後、京都府立医科大学助手・講師。1975年、奈良女子大学助教授に就任、教授、理学部長を経て、2005年定年退職。奈良女子大学名誉教授。ゾウリムシの生活史研究を足場に、生物における寿命や、死の進化的意義、有性生殖の起源などを探求してきた。著書に、『生物の寿命と細胞の寿命〜ゾウリムシの視点から』(平凡社)、『寿命論〜細胞から「生命」を考える』『有性生殖論〜「性」と「死」はなぜ生まれたのか』(ともにNHK出版)、『生老死の進化〜生物の「寿命」はなぜ生まれたか』(京都大学学術出版会)などがある。

プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

\ 最新刊のご紹介 /

TISSUE vol.04

TISSUE vol.04
特集:毎日は愉しい

内容紹介

今回のTISSUE(ティシュー)では、「毎日は愉しい」をテーマに、さまざまな分野からつむぎだされた次の7つの物語をお届けします。無限の世界につながる扉へ、ようこそ。

¥1,728(税込)

トップへ戻る