2019年4月、桜の咲く吉野の里へ取材に訪れた時、初めて目にしたのが、吉野山の勝手神社で行われた不思議な「影絵」でした。
仮面を被り、時に踊りながら、モノトーンの影絵を通して遠くバリの昔話を紡いでいく。
沖縄から駆けつけたアマムyukiさんの三線の音色とともに、神話の時間が流れはじめ、物語とともに演じ手の優しいメッセージが伝わってきました。

影絵を演じたのは、物語作家のわたなべなおかさんと、バリ舞踊家の小谷野哲郎さん。
壬申の乱、源平の争い、南北朝……。
古来、再起を果たそうとする人たちが訪れた吉野の土地で、
二人が求めてきたのは、魂のよみがえり。

人と世の中の価値観が大きく変化するこれからの時代、何を大事にし、どんな「物語」を紡いでいくか? そのメッセージは? 
影絵公演の翌日、賑やかな吉野山から離れ、ゆっくりとお話を伺いました。

1言葉との出会いが「物語」を生んだ

2020年2月6日

――
なおかさん、生まれは吉野なんですか?
なおか
生まれ育ちは大阪なのですが、叔母がここに嫁ぎ、住んでいるんです。それで大学時代からよく来るようになりました。
――
影絵の奉納を始めたのはどんな経緯から?
なおか
ちょうど2011年に父が病気になって実家に戻ったんですが、亡くなる前にある祝詞を教えてもらって、すごく感動したんです。「身中祓詞」(みなかのはらいのことば)というのですが、この祝詞に「神様ってこんなに寛容で、こんなにも聴してくれる大きく優しい存在なんだ」と思ったんですね。
当時、震災直後ということでいろんな場所にチャリティーイベントで呼んでいただいて、祝詞を挙げさせていただきました。その祝詞を聞いてくださった(吉野山の)吉水神社の宮司さんとご縁ができ、巫女としてお務めしたこともあります。
――
まず巫女さんをされるようになったんですね。その祝詞というのは?
なおか
言葉の持っている力というか……、言霊というものを体感したきっかけだったかもしれません。理由はわからないけれど、わたしは小さい頃から言霊の力というものがあると感じ、ずっと日常生活の一部として大切にしていました。
それは、「こんにちは」や「ありがとう」のような、ごく普通の言葉です。だから、「身中祓詞」に出会った時も自分の中の何かが反応して、大切にしていこうと思えたし、わたしにとってそれが言葉との出会いだったと思うんです。
――
それが「語り」につながった?
なおか
ええ。この祝詞に出会った時期と、自分が「伝えたいこと」に出会った時期が同じだったんです。そのことを周囲に話していたら友人が話す場をつくってくれたり、物語を書くことをすすめてくれる人たちが現れたり、そうやっていまの活動が自然と始まったように思います。
――
2011年が最初?
なおか
最初に大きく動いたのが2011年だったんですが、(オーストラリアにある)アボリジニの森(注1)に行った2008年あたりから少しずつ始まっていました。時を同じくして、たけちゃんとの出会いもありましたし……。
――
(インタビューしている場所の隣にある保久良古墳を指して)ここに眠っているといわれている建皇子(注2)のことですね。
なおか
はい。たけちゃんと出会い、こんなに優しい素晴らしい世界があるんだと思ったら、それを人に伝えたくなったんです。「語り部」と呼ばれることには、なんだか違和感があったのですが……。感動をしたことを分かちあいたいというか、伝えたいなあという思いが自然と湧き上がってきたんですね。
――
影絵を提案されたのは小谷野さん?
小谷野
ええ。影絵をやってみようという話は、なおと最初に会った時にしています。『ぼくはうま』(注3)という絵本を読ませてもらって、彼女の物語の世界がすごく気に入ったんですね。
――
どこで出会ったんですか?
小谷野
沖縄の久高島ですね。
なおか
私は、やらだ出版という出版社をやっていまして、その一作目に『ぼくはうま』をつくったんですが、そのご縁から2015年に沖縄の南城市の公演に誘われたんです。
上演されたのは、小池博史さんが演出した「風の又三郎」という作品(注4)で、小谷野さんも出演されていました。私は一観客として彼に出会って、「すごい役者さんだなあ」と思っていたのですが、翌日友人と渡った久高島にもいらしていて、そこでお話するようになりました。
――
その段階で何か生まれそうな予感は?
なおか
それが全然なくて(笑)。わたしは自分が実際に体験したことを物語にして語っていきたかっただけで、舞台の人だった小谷野さんとは感覚が全然違うと思っていたんです。小谷野さんは「一緒にやろうよ!」みたいなノリだったんでが、私は何百歩も後ろに引いていて(笑)。
ただ、(2作目にあたる)『やどかりの夢』(注5)という絵本ができあがった時、毎回本に合わせた誕生祭をやっているんですが、「(沖縄の伝統染色である)紅型(びんがた)とバリの影絵の融合はすごく面白いと思う」と、小谷野さんに言われて。その時、なにかスイッチが入った感じがしたんです。
――
「やどかりの夢」は全ページ紅型で描かれた作品ですよね。この物語を影絵で表現しようと?
小谷野
ええ。彼女の物語にある神話的部分と親和性が高いと思ったんです。神話の世界や夢の世界って論理的にありえないことが起きたりしますが、影絵だとすんなり描けるところがあるし、影絵の白と黒、光と影だけの世界のほうが観ている人も想像がふくらみますよね? きっとなおの物語にも合うんじゃないかと思って提案したんです。
――
昨夜、影絵を拝見したんですが(こちらを参照)、あのストーリーはなおかさんが考えたんですか?
なおか
去年『やどかりの夢』の公演で何回かバリに行く機会があったんですが、そこでの体験がとても大きくて……。実際にバリに残っているお話からわたしなりの脚本を書いて、小谷野さんにそれをもとに演出していただいて。
小谷野
彼女の脚本を二人で練り上げていく形でいつもつくっていますね。
――
神社に奉納する物語がバリのお話というのが面白かったです。
なおか
いくつか作品はあるのですが、(再建祭に)どれが一番合うかと考えた時、あの作品が思い浮かびました。
バリの神様の話ではあるけれど、日本にすごく通じるところがあると思ったんです。

(つづく)

注1 アボリジニの森…オーストラリア先住民、アボリジニ、クク・ヤランジ族の暮らす森。「2008年、夢の中でこの森の存在とつながり、実際にご縁をいただいた」(なおかさん)という。

注2 建皇子(たけるのみこ)…奈良県吉野郡大淀町今木に現存する保久良(ほくら)古墳。天智天皇の第一皇子とされ、8歳で夭折したと言われている。

注3 『ぼくはうま』…「ありのままのひかり 命の輝き」を思いに、異なるアーティストの挿絵と共に制作したCD付絵本、やらだ出版の処女作。

注4 「風の又三郎 -Oddysey of Wind-」…宮澤賢治の物語を原作として、小池博史が演出した「小池博史ブリッジプロジェクト」の舞台作品。2014年10月に千葉県流山市にて初演。以来、東京(吉祥寺)、沖縄(南城市)、長野(長野市、茅野市)、宮城(仙台市)などで公演。

注5 『やどかりの夢』…「イマジネーションが世界を笑顔に!」をテーマに、沖縄伝統染色・紅型で全ページ描かれた絵本。やどかり音頭をはじめ歌って踊れるCD付。やどかり一座が編成され、国内外60以上で影絵音楽公演を実施。
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プロフィール

ポートフォリオ

わたなべなおか Naoka Watanabe
物語作家、やらだ出版代表。 「命に寄り添う物語を。」の思いをもとに、世界一 小さな出版社「やらだ出版」を主宰。沖縄の久高島より言開きしたCD付絵本「ぼくは うま」をはじめ、沖縄南城市で創作したCD付紅型絵本「やどかりの夢」を刊行。流通をほぼ介さず「手から手へ」ご縁に育まれ、4000冊を完売。 その後、3作目となる実話をもとにした言葉のない活版印刷絵本「しののめ時間〜おばあちゃんの朝のしご と」を刊行。 「物語」から聞こえる世界を絵本の中心に影絵や音楽朗読ライブを通して、国内外で表現している。 その他、代表作に奈良県吉野郡大淀町今木に実在する保久良古墳を描いた手話語り「かぜの子たけちゃん」などがある。 バリ舞踊家小谷野哲郎とのユニット「ほしふね ☆」では、影絵やパペット、仮面を駆使しながら国内外で公演やワークショップを展開。

小谷野哲郎 Tetsuro Koyano
仮面舞踊・役者・影絵・音楽 ジュクン・ミュージック代表。東海大学音楽学課程在学中よりバリ島のサウンド スケープ研究のかたわら、バリ舞踊を始める。同大学院修了後、1995年よりインドネシア政府給費留学生としてバリに留学。 帰国後、プロのバリ舞踊家として活動を開始。バ リの仮面やガムラン音楽、影絵を駆使しながら、バリの枠にとらわれずに国内外で様々なジャ ンルのアーティストたちと公演活動やワークショップを展開。役者としてもコンテンポラリーの舞台などで活躍。近年では岩手県遠野市の早池 峯神楽の舞手としても活動している。 バリガムラン芸能集団「ウロツテノヤ子」主宰。 物語作家わたなべなおかとのユニット「ほしふね ☆」でも、影絵と仮面、語りを駆使したパフォーマンスで国内外で活動している。 日本インドネシア芸術文化交流オフィス「ジュク ン・ミュージック」代表。

ほしふね☆ hoshifune☆
仮面舞踊家小谷野哲郎と物語作家わたなべなおかとのユニット。 「自然」「風土」「夢」から得たインスピレーションをもとに、なおかの身体感覚を通した経験から創作した物語を小谷野が演出。 影絵や舞、語り、仮面を駆使して舞台作品化し、全国各地を巡っている。 2018年にはインドネシア・バリ島およびチカランにて公演とワークショップ。 2019年より、タイ・チェンマイの劇団Wandering Moonおよびサンフランシスコの影絵 演出家Larry Reed(ShadowLight Productions)との共同プロジェクトを開始。 共同制作により、2020年からタイ、日本、アメリカ他で順次公演予定。 海外にもその活動の場を広げている。
代表作に、 アイヌの伝説を影絵作品にした「カムイミンタラ〜神さまの庭」、アボリジニの森での体験からヒントを得て、フクロウと人との魂のつながりを描いた「ほしの子」、 バリ島の伝承をもとにした影絵と語りの両バージョン「神さまへの捧げのもの〜バリがバリと呼ばれる理由」、古事記の神代七世を描いた影絵と仮面による「あめつちのはじめ」、古くから続く水の道の物語「メグルタイコノミズ」など。

2016 北海道白老町「TOBIU CAMP」参加
2017 山梨県西湖「マンモスパウワウ」出演 。
2018 インドネシアツアー。奈良県天理市「Story Time」出演 。
2019 タイ・チェンマイの劇団「Wandering Moon」との共同制作プロジェクト開始。「あめつちのはじめ」台湾公演。他
instagram: https://www.instagram.com/hoshifuneya/


背景写真 by TOMOKO UJI on Unsplash

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