2019年4月、桜の咲く吉野の里へ取材に訪れた時、初めて目にしたのが、吉野山の勝手神社で行われた不思議な「影絵」でした。
仮面を被り、時に踊りながら、モノトーンの影絵を通して遠くバリの昔話を紡いでいく。
沖縄から駆けつけたアマムyukiさんの三線の音色とともに、神話の時間が流れはじめ、物語とともに演じ手の優しいメッセージが伝わってきました。

影絵を演じたのは、物語作家のわたなべなおかさんと、バリ舞踊家の小谷野哲郎さん。
壬申の乱、源平の争い、南北朝……。
古来、再起を果たそうとする人たちが訪れた吉野の土地で、
二人が求めてきたのは、魂のよみがえり。

人と世の中の価値観が大きく変化するこれからの時代、何を大事にし、どんな「物語」を紡いでいくか? そのメッセージは? 
影絵公演の翌日、賑やかな吉野山から離れ、ゆっくりとお話を伺いました。

2「アボリジニの森」で感じたこと

2020年2月6日

――
吉野の土地と関わることで活動が広がっていった感じがありますね。「ここがわたしの拠点だ」という感覚はありますか?
なおか
わたしは多分、どこにいてもあまり変わらないと思うんです。どうしてもここに住まないといけないなんて思わないし、住んでいる場所には深いこだわりはない。ただ、その一方で、どこにいても「わたしはここに帰ってくるだろうな」という感覚があって……。
――
そう感じるきっかけはあったんでしょうか?
なおか
なんだろうなあ……。わたしのなかではアボリジニの人々と出会ったことがすごく大きくて、(旅で訪れた)アボリジニの森が肌に合ったというか、ずっと住みたいと思ったし、人ともすごくわかり合えて楽しかったですし。
ただ、その森のなかでは幸せなんだけれど、わたしの生まれ持った命みたいなものを活かしきれないような気がして、「ここに住むということとは違うんだろうなあ」と、残念だけど、直感で感じていたんです。
――
安住の地ではなかった?
なおか
その頃、夢で見たのとまったく同じ二本の木がアボリジニの森にあったんです。アボリジニのおばあちゃんたちにその話をしたら、「その木があなたをこの森に呼んだのよ」って教えてくれたんですね。それで、忘れないようにその木の写真を撮ったりしていたら、その木が「そんなことしなくてもいいよ。戻ってきたい時はいつでも戻ってこられるから。そういうことができるよ」って、話してくれたんです。
それより自分を見つめなさい、ということだったのかもしれません。そこから安心して「わたし」を生きよう、生きてみよう、と思えるようになったような気がします。
――
おもしろいですね。
なおか
感覚的には、いまでも目を瞑るとあの場所に瞬時に戻れるんです。ヘンかもしれないですが、人間の持っている動物的な感覚? テレポーテーション? 詳しくないのでよくわからないのですが(笑)、そういうものがあるんだと信じられるようになってから、「どこにいてもいいや」と思えるようになって。
――
どこにいても自分はおなじ、でも、いつでも帰れる場所がある……。
なおか
ええ。たけちゃん(建皇子)のところ(注1)も、わたしにとってはそんな場所なんですね。
わたしだけがお祀りする場所ではないけれど、わたしがこれからどこにいても、ここに対する思いというのは変わらない。いまわたしがここにいるのも何か理由があるからだと思うけれども、あまりその理由を探らないというか……ただ、いまはここにいさせていただいているという感じなんです。だから、いま、わたしがここでできることを一生懸命にやりたい、という気持ちです。
建皇子のお墓とされる保久良古墳の前で。
――
それはどこにいても?
なおか
(物語作家として)いろんなところをめぐらせていただいて、出会う場所が増え、その一つ一つの場所に縁ができ、大切な場所になり、そうやってつながっていけることをとても幸せに思います。自分の感覚を通してその場所とつながることができれば、「本当に世界はひとつなんだ」と実感として思えますよね? やっぱりそうなんだって。それが自分の気持ちを強くしてくれるんです。

(つづく)

注1 建皇子(たけるのみこ)…奈良県吉野郡大淀町今木に現存する保久良(ほくら)古墳。天智天皇の第一皇子とされ、8歳で夭折したと言われている。
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プロフィール

ポートフォリオ

わたなべなおか Naoka Watanabe
物語作家、やらだ出版代表。 「命に寄り添う物語を。」の思いをもとに、世界一 小さな出版社「やらだ出版」を主宰。沖縄の久高島より言開きしたCD付絵本「ぼくは うま」をはじめ、沖縄南城市で創作したCD付紅型絵本「やどかりの夢」を刊行。流通をほぼ介さず「手から手へ」ご縁に育まれ、4000冊を完売。 その後、3作目となる実話をもとにした言葉のない活版印刷絵本「しののめ時間〜おばあちゃんの朝のしご と」を刊行。 「物語」から聞こえる世界を絵本の中心に影絵や音楽朗読ライブを通して、国内外で表現している。 その他、代表作に奈良県吉野郡大淀町今木に実在する保久良古墳を描いた手話語り「かぜの子たけちゃん」などがある。 バリ舞踊家小谷野哲郎とのユニット「ほしふね ☆」では、影絵やパペット、仮面を駆使しながら国内外で公演やワークショップを展開。

小谷野哲郎 Tetsuro Koyano
仮面舞踊・役者・影絵・音楽 ジュクン・ミュージック代表。東海大学音楽学課程在学中よりバリ島のサウンド スケープ研究のかたわら、バリ舞踊を始める。同大学院修了後、1995年よりインドネシア政府給費留学生としてバリに留学。 帰国後、プロのバリ舞踊家として活動を開始。バ リの仮面やガムラン音楽、影絵を駆使しながら、バリの枠にとらわれずに国内外で様々なジャ ンルのアーティストたちと公演活動やワークショップを展開。役者としてもコンテンポラリーの舞台などで活躍。近年では岩手県遠野市の早池 峯神楽の舞手としても活動している。 バリガムラン芸能集団「ウロツテノヤ子」主宰。 物語作家わたなべなおかとのユニット「ほしふね ☆」でも、影絵と仮面、語りを駆使したパフォーマンスで国内外で活動している。 日本インドネシア芸術文化交流オフィス「ジュク ン・ミュージック」代表。

ほしふね☆ hoshifune☆
仮面舞踊家小谷野哲郎と物語作家わたなべなおかとのユニット。 「自然」「風土」「夢」から得たインスピレーションをもとに、なおかの身体感覚を通した経験から創作した物語を小谷野が演出。 影絵や舞、語り、仮面を駆使して舞台作品化し、全国各地を巡っている。 2018年にはインドネシア・バリ島およびチカランにて公演とワークショップ。 2019年より、タイ・チェンマイの劇団Wandering Moonおよびサンフランシスコの影絵 演出家Larry Reed(ShadowLight Productions)との共同プロジェクトを開始。 共同制作により、2020年からタイ、日本、アメリカ他で順次公演予定。 海外にもその活動の場を広げている。
代表作に、 アイヌの伝説を影絵作品にした「カムイミンタラ〜神さまの庭」、アボリジニの森での体験からヒントを得て、フクロウと人との魂のつながりを描いた「ほしの子」、 バリ島の伝承をもとにした影絵と語りの両バージョン「神さまへの捧げのもの〜バリがバリと呼ばれる理由」、古事記の神代七世を描いた影絵と仮面による「あめつちのはじめ」、古くから続く水の道の物語「メグルタイコノミズ」など。

2016 北海道白老町「TOBIU CAMP」参加
2017 山梨県西湖「マンモスパウワウ」出演 。
2018 インドネシアツアー。奈良県天理市「Story Time」出演 。
2019 タイ・チェンマイの劇団「Wandering Moon」との共同制作プロジェクト開始。「あめつちのはじめ」台湾公演。他
instagram: https://www.instagram.com/hoshifuneya/


背景写真 by TOMOKO UJI on Unsplash

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