2019年4月、桜の咲く吉野の里へ取材に訪れた時、初めて目にしたのが、吉野山の勝手神社で行われた不思議な「影絵」でした。
仮面を被り、時に踊りながら、モノトーンの影絵を通して遠くバリの昔話を紡いでいく。
沖縄から駆けつけたアマムyukiさんの三線の音色とともに、神話の時間が流れはじめ、物語とともに演じ手の優しいメッセージが伝わってきました。

影絵を演じたのは、物語作家のわたなべなおかさんと、バリ舞踊家の小谷野哲郎さん。
壬申の乱、源平の争い、南北朝……。
古来、再起を果たそうとする人たちが訪れた吉野の土地で、
二人が求めてきたのは、魂のよみがえり。

人と世の中の価値観が大きく変化するこれからの時代、何を大事にし、どんな「物語」を紡いでいくか? そのメッセージは? 
影絵公演の翌日、賑やかな吉野山から離れ、ゆっくりとお話を伺いました。

3旅をして、また戻ってくる場所

2020年2月6日

――
仕事柄、小谷野さんも一年にいろいろな土地をまわられていますよね?
小谷野
そうですね、同じ場所に二週間といないような感じです。
――
そうした生活はいつ頃からなんですか?
小谷野
ここ三年、特にそうですね。もともといろんなところに行っていましたが、この数年で動きが激しくなってきました。
――
ご自身の仕事をどう伝えていますか?
小谷野
自己紹介では、基本的に「バリ舞踊家」と説明しています。バリではおもに仮面舞踊の修行をして、いまは舞踊を中心に活動しながら、影絵や演劇、音楽活動などもしています。
――
バリが舞踊家としての原点なんですね。
小谷野
はい。ただ、バリで舞踊を習いはじめた時、「これは僕にはできないな」と思ったんです。この芸能はこの人たちのものだから、日本人である僕は学ぶことはできても、同じようにはできないだろうと。稽古すればバリの人たち以上にテクニックは身につくかもしれないけれど、そういうことでもないなと感じたんです。
――
ただ真似るだけになってしまう?
小谷野
ええ。だから、日本人として学ぶなかで、日本人の身体性や感覚を通して新しいものが生み出せたら面白いなと思ったんです。以来、自分がバリで学んだことを使っていろいろな表現活動をしているというところですね。
――
これまでいろいろな土地をめぐるなかで、どんなことを感じてきましたか?
小谷野
僕にとって好きな場所はたくさんあって、この吉野だったり、バリももちろんだし。ただ、どこかの場所に所属するというより、いろんな場所でいろんな人と関わることで生まれるご縁みたいなものが大切だと思っています。
 いまの時代、情報自体はたくさん得られるけれど、僕自身が本当にその場に行くということにすごく大きな意味や役割があると思うんですね。動いていくことで、情報だけでは得られない感覚が立ち上がってくるのを感じます。
――
この吉野ではどうでしたか?
小谷野
論理的にはうまく説明できないですが、創作の原点となる場所だと思いますね。
 ここで何かをつくって、それを持って各地をめぐるという《始まりの場所》であり、同時に《戻ってくる場所》であるという……。
――
なおかさんは?
なおか
わたしにとって、ここは《再生を感じる場所》ですね。ここには悲しみととらえられる歴史もありますが、それは歴史をどう見るかなんだということも同時に学びました。それと同時に、なにか静かに深い悲しみを受け止める力のある土地だなとすごく感じています。
――
そういう思いの人が引き寄せられるような……。
なおか
みんなそれぞれ幸せだとしても、悲しみは持っているし、それを深く見つめたくなることはありますよね。吉野という地は、それを助けてくれる場所なんだと思います。
 悲しみを否定しないことで、とても生きやすくなるように思うんです。もちろん、悲しみだけではなく、光があれば必ず影がある。その両者を感じられる場所ではないかと思います。
――
悲しみを見つめられる場所。
なおか
(建皇子の古墳を守っている)叔母がいつも「ここには縁のない人は来られへん」って言うんですよ。叔母が(古墳の近くで)店をやっていた時も本当にいろんな人がやってきて人生相談したり、アーティスの方がやってきて、逆に癒してくれることもあったり。
保久良古墳の前で、叔母の廣田裕子さんと。
――
循環していたんですね。
なおか
そうした様子をずっと見てきたことで、この土地に心の奥を見つめ直す優しさと厳しさの両方を感じるようになりました。あまりフワッとしていないというか、ここにいると自分のなかに入り込んでしまうんですよね。
――
吉野の歴史とオーバーラップしますね。
なおか
その意味では、自分のなかの迷路に入り込んでしまうような、ちょっと重い場所でもあるかもしれませんけど……。

(つづく)

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プロフィール

ポートフォリオ

わたなべなおか Naoka Watanabe
物語作家、やらだ出版代表。 「命に寄り添う物語を。」の思いをもとに、世界一 小さな出版社「やらだ出版」を主宰。沖縄の久高島より言開きしたCD付絵本「ぼくは うま」をはじめ、沖縄南城市で創作したCD付紅型絵本「やどかりの夢」を刊行。流通をほぼ介さず「手から手へ」ご縁に育まれ、4000冊を完売。 その後、3作目となる実話をもとにした言葉のない活版印刷絵本「しののめ時間〜おばあちゃんの朝のしご と」を刊行。 「物語」から聞こえる世界を絵本の中心に影絵や音楽朗読ライブを通して、国内外で表現している。 その他、代表作に奈良県吉野郡大淀町今木に実在する保久良古墳を描いた手話語り「かぜの子たけちゃん」などがある。 バリ舞踊家小谷野哲郎とのユニット「ほしふね ☆」では、影絵やパペット、仮面を駆使しながら国内外で公演やワークショップを展開。

小谷野哲郎 Tetsuro Koyano
仮面舞踊・役者・影絵・音楽 ジュクン・ミュージック代表。東海大学音楽学課程在学中よりバリ島のサウンド スケープ研究のかたわら、バリ舞踊を始める。同大学院修了後、1995年よりインドネシア政府給費留学生としてバリに留学。 帰国後、プロのバリ舞踊家として活動を開始。バ リの仮面やガムラン音楽、影絵を駆使しながら、バリの枠にとらわれずに国内外で様々なジャ ンルのアーティストたちと公演活動やワークショップを展開。役者としてもコンテンポラリーの舞台などで活躍。近年では岩手県遠野市の早池 峯神楽の舞手としても活動している。 バリガムラン芸能集団「ウロツテノヤ子」主宰。 物語作家わたなべなおかとのユニット「ほしふね ☆」でも、影絵と仮面、語りを駆使したパフォーマンスで国内外で活動している。 日本インドネシア芸術文化交流オフィス「ジュク ン・ミュージック」代表。

ほしふね☆ hoshifune☆
仮面舞踊家小谷野哲郎と物語作家わたなべなおかとのユニット。 「自然」「風土」「夢」から得たインスピレーションをもとに、なおかの身体感覚を通した経験から創作した物語を小谷野が演出。 影絵や舞、語り、仮面を駆使して舞台作品化し、全国各地を巡っている。 2018年にはインドネシア・バリ島およびチカランにて公演とワークショップ。 2019年より、タイ・チェンマイの劇団Wandering Moonおよびサンフランシスコの影絵 演出家Larry Reed(ShadowLight Productions)との共同プロジェクトを開始。 共同制作により、2020年からタイ、日本、アメリカ他で順次公演予定。 海外にもその活動の場を広げている。
代表作に、 アイヌの伝説を影絵作品にした「カムイミンタラ〜神さまの庭」、アボリジニの森での体験からヒントを得て、フクロウと人との魂のつながりを描いた「ほしの子」、 バリ島の伝承をもとにした影絵と語りの両バージョン「神さまへの捧げのもの〜バリがバリと呼ばれる理由」、古事記の神代七世を描いた影絵と仮面による「あめつちのはじめ」、古くから続く水の道の物語「メグルタイコノミズ」など。

2016 北海道白老町「TOBIU CAMP」参加
2017 山梨県西湖「マンモスパウワウ」出演 。
2018 インドネシアツアー。奈良県天理市「Story Time」出演 。
2019 タイ・チェンマイの劇団「Wandering Moon」との共同制作プロジェクト開始。「あめつちのはじめ」台湾公演。他
instagram: https://www.instagram.com/hoshifuneya/


背景写真 by TOMOKO UJI on Unsplash

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