2019年4月、桜の咲く吉野の里へ取材に訪れた時、初めて目にしたのが、吉野山の勝手神社で行われた不思議な「影絵」でした。
仮面を被り、時に踊りながら、モノトーンの影絵を通して遠くバリの昔話を紡いでいく。
沖縄から駆けつけたアマムyukiさんの三線の音色とともに、神話の時間が流れはじめ、物語とともに演じ手の優しいメッセージが伝わってきました。

影絵を演じたのは、物語作家のわたなべなおかさんと、バリ舞踊家の小谷野哲郎さん。
壬申の乱、源平の争い、南北朝……。
古来、再起を果たそうとする人たちが訪れた吉野の土地で、
二人が求めてきたのは、魂のよみがえり。

人と世の中の価値観が大きく変化するこれからの時代、何を大事にし、どんな「物語」を紡いでいくか? そのメッセージは? 
影絵公演の翌日、賑やかな吉野山から離れ、ゆっくりとお話を伺いました。

5「天上の虹」と建皇子のメッセージ

2020年2月6日

――
一緒につくったような。
なおか
はい。それがわたしの一番原点のお話で、まさにここで生まれたんです。
 ただ、公表するのがすごく怖くて。歴史学や考古学の先生方の間で「ここは本当は建皇子の古墳ではない」とか様々なお話しがあるようで、わたしは……。
――
自信がなかった?
なおか
ええ。だけど、それと同時に多くの方が語りの場をつくってくださって、少しずつ続けていくなかで、去年、地元の大淀町のシンポジウム(注1)で初めて上演できたんです。
――
10年かけて土地に溶け込んできたんですね。歴史の論争はもう気にならない?
なおか
はい。「1300年前のことを知っている人なんて誰もいないじゃないか」って思ったら吹っ切れたんです(笑)。「正しい」とか「間違ってる」とかそういうふうにここを見ていなかったし、実際、誰もその時のことを見てきたわけじゃない。みんな何かしらをヒントに想像を膨らましているわけですよね? だったら、いまここに立っているわたしの感覚を信じればいいんだと。それを信じてみたかったんです。
――
腹がくくれた?
なおか
そう、腹がくくれて(笑)。精神的にすごくラクになれたし、逆に物語の力というものを感じられるようになったんです。
――
なおかさんは、たけちゃんにどんな印象を持っているんですか?
なおか
とても純粋で優しい、ということです。たけちゃんはお母さん(注2)を想っている、と一番はじめに感じたんです。だからわたしは、「お母さんを悲しませないでほしい」というメッセージをたけちゃんから感じました。おそらくそれは、「争わないで」ということでもあると思うんです。
――
いまの時代に必要なメッセージですね。
なおか
すべての人がお母さんから産まれてきているわけだから、そのお母さんを悲しませないということがとっても大切なんだと、たけちゃんから感じさせてもらって……。
――
あの時代にすごいですよね。
なおか
親族関係がとっても複雑だったし、(壬申の乱のような)争いもあった時代なので、たけちゃんはきっと人一倍憂いていたんじゃないかと思うんです。たけちゃんにとっては、もっとシンプルにみんな大好きな大切な人だったと思うから。そういうところを斉明天皇は歌のなかで「純粋で優しき皇子」というふうに残されたんじゃないかなと思っています。
シンポジウムでご一緒した里中満知子先生とも、そういう話をさせていただいて……史料は残されていないけれど、彼の魂のレベルの大きさ、可能性は、これからの時代に発露されていくのかもしれないと思います。
――
里中さんは『天上の虹』という持統天皇を主人公にした大作を描かれていますね。建皇子も出てくるんですよね?
なおか
はい。だから、先生からも「あなた、頑張りなさいね」と言っていただきました。何をどう頑張っていけばいいのかなと思いましたけど……(笑)。すごく励まされ勇気をいただきました。
里中満智子『天上の虹』(講談社)より 

(つづく)

注1 大淀町のシンポジウム…「VOICE OF TAKERU」というタイトルで、2018年11月18日に大淀町文化会館で開催。漫画家の里中満智子さんを迎え、天智天皇の皇子・建皇子について、朗読劇、講演、パネルディスカッションを通して、その実像と伝承に迫った。
注2 たけちゃんのお母さん(建皇子の母)…遠智娘(おちのいらつめ)。持統天皇は姉にあたる。
\ この記事をシェアする /

プロフィール

ポートフォリオ

わたなべなおか Naoka Watanabe
物語作家、やらだ出版代表。 「命に寄り添う物語を。」の思いをもとに、世界一 小さな出版社「やらだ出版」を主宰。沖縄の久高島より言開きしたCD付絵本「ぼくは うま」をはじめ、沖縄南城市で創作したCD付紅型絵本「やどかりの夢」を刊行。流通をほぼ介さず「手から手へ」ご縁に育まれ、4000冊を完売。 その後、3作目となる実話をもとにした言葉のない活版印刷絵本「しののめ時間〜おばあちゃんの朝のしご と」を刊行。 「物語」から聞こえる世界を絵本の中心に影絵や音楽朗読ライブを通して、国内外で表現している。 その他、代表作に奈良県吉野郡大淀町今木に実在する保久良古墳を描いた手話語り「かぜの子たけちゃん」などがある。 バリ舞踊家小谷野哲郎とのユニット「ほしふね ☆」では、影絵やパペット、仮面を駆使しながら国内外で公演やワークショップを展開。

小谷野哲郎 Tetsuro Koyano
仮面舞踊・役者・影絵・音楽 ジュクン・ミュージック代表。東海大学音楽学課程在学中よりバリ島のサウンド スケープ研究のかたわら、バリ舞踊を始める。同大学院修了後、1995年よりインドネシア政府給費留学生としてバリに留学。 帰国後、プロのバリ舞踊家として活動を開始。バ リの仮面やガムラン音楽、影絵を駆使しながら、バリの枠にとらわれずに国内外で様々なジャ ンルのアーティストたちと公演活動やワークショップを展開。役者としてもコンテンポラリーの舞台などで活躍。近年では岩手県遠野市の早池 峯神楽の舞手としても活動している。 バリガムラン芸能集団「ウロツテノヤ子」主宰。 物語作家わたなべなおかとのユニット「ほしふね ☆」でも、影絵と仮面、語りを駆使したパフォーマンスで国内外で活動している。 日本インドネシア芸術文化交流オフィス「ジュク ン・ミュージック」代表。

ほしふね☆ hoshifune☆
仮面舞踊家小谷野哲郎と物語作家わたなべなおかとのユニット。 「自然」「風土」「夢」から得たインスピレーションをもとに、なおかの身体感覚を通した経験から創作した物語を小谷野が演出。 影絵や舞、語り、仮面を駆使して舞台作品化し、全国各地を巡っている。 2018年にはインドネシア・バリ島およびチカランにて公演とワークショップ。 2019年より、タイ・チェンマイの劇団Wandering Moonおよびサンフランシスコの影絵 演出家Larry Reed(ShadowLight Productions)との共同プロジェクトを開始。 共同制作により、2020年からタイ、日本、アメリカ他で順次公演予定。 海外にもその活動の場を広げている。
代表作に、 アイヌの伝説を影絵作品にした「カムイミンタラ〜神さまの庭」、アボリジニの森での体験からヒントを得て、フクロウと人との魂のつながりを描いた「ほしの子」、 バリ島の伝承をもとにした影絵と語りの両バージョン「神さまへの捧げのもの〜バリがバリと呼ばれる理由」、古事記の神代七世を描いた影絵と仮面による「あめつちのはじめ」、古くから続く水の道の物語「メグルタイコノミズ」など。

2016 北海道白老町「TOBIU CAMP」参加
2017 山梨県西湖「マンモスパウワウ」出演 。
2018 インドネシアツアー。奈良県天理市「Story Time」出演 。
2019 タイ・チェンマイの劇団「Wandering Moon」との共同制作プロジェクト開始。「あめつちのはじめ」台湾公演。他
instagram: https://www.instagram.com/hoshifuneya/


背景写真 by TOMOKO UJI on Unsplash

\ 最新刊のご紹介 /

TISSUE vol.04

TISSUE vol.04
特集:毎日は愉しい

内容紹介

今回のTISSUE(ティシュー)では、「毎日は愉しい」をテーマに、さまざまな分野からつむぎだされた次の7つの物語をお届けします。無限の世界につながる扉へ、ようこそ。

¥1,728(税込)

トップへ戻る